ここ数年、5月なのに気温が30度を超える日が珍しくなくなりました。「熱中症は真夏の話でしょ?」と思いがちですが、実は体が暑さに慣れていない5月〜6月こそ、熱中症のリスクが急激に高まる時期です。

しかも、2025年の統計では熱中症による救急搬送の57%が65歳以上の高齢者でした。その多くは「まさか自分が」と思っていた方々です。この記事では、シニアが熱中症になりやすい理由と、今のうちから備えておきたい予防策をまとめました。

この記事でわかること
  • シニアが熱中症になりやすい3つの身体的な理由(暑さを感じにくい・のどが渇きにくい・汗をかきにくい)
  • 「真夏の前」が一番危ない理由と、体を暑さに慣らす「暑熱順化」の考え方
  • 今日からできる予防策7つと、いざという時の応急処置の手順

なぜシニアは熱中症になりやすいのか

高齢者の熱中症が多い最大の理由は、加齢によって体の「暑さセンサー」が鈍くなることです。具体的には3つの変化が起きています。

暑さを感じにくくなる
皮膚にある温度センサーの感度が年齢とともに低下します。若い人なら「暑い」と感じる室温でも、シニアの方は「ちょうどいい」と感じてしまうことがあります。部屋の温度が上がっていることに気づかないまま過ごしてしまい、知らず知らずのうちに体温が上昇してしまうのです。

のどの渇きを感じにくくなる
脳の渇きを感じるセンサーも加齢で鈍くなります。体は水分を必要としているのに「のどが渇いた」と感じない。その結果、気づかないうちに脱水が進んでしまいます。厚生労働省が「のどが渇く前に水分補給を」と繰り返し呼びかけているのは、このためです。

汗をかきにくくなる
汗は体温を下げるための大切な仕組みですが、加齢とともに汗腺(かんせん)の機能が低下し、汗の量が減ります。若い頃と同じ暑さでも、体の熱を外に逃がしにくくなっているのです。

📌 「自覚症状がない」が一番怖い
暑さを感じない、のどが渇かない、汗をかかない――この3つが重なると、本人は「大丈夫」と思っているのに体はすでに危険な状態になっていることがあります。シニアの熱中症で怖いのは、自覚症状がないまま重症化するケースが多いことです。

「まだ5月なのに」が一番危ない理由

熱中症は真夏に最も多く発生しますが、実は5月〜6月の急に暑くなる時期も非常に危険です。その鍵を握るのが「暑熱順化(しょねつじゅんか)」という仕組みです。

暑熱順化とは
暑熱順化とは、体が暑さに慣れることです。暑い環境に繰り返しさらされると、汗をかきやすくなり、血流が増えて体温調節がうまくいくようになります。ただし、この慣れには1〜2週間ほどかかります。

5月の急な暑さに体が追いつかない
冬から春にかけて涼しい環境で過ごしてきた体は、まだ「夏モード」に切り替わっていません。そこに突然30度を超える日がやって来ると、体の熱を逃がす仕組みが十分に働かず、熱中症を起こしやすくなります。真夏より気温が低くても、体が慣れていない分だけリスクが高いのです。

シニアは暑熱順化に時間がかかる
若い人に比べて、シニアの方は暑熱順化に時間がかかります。汗腺の機能が低下しているため、暑さに対する体の適応が遅いのです。だからこそ、暑くなる前から意識的に体を暑さに慣らしておくことが大切です。

💡 暑さに体を慣らすコツ
暑くなる前の4月〜5月のうちから、やや暑いと感じる環境で軽い運動を始めましょう。ウォーキングなら1日15〜20分程度、汗ばむくらいのペースで十分です。入浴で湯船にしっかり浸かるのも暑熱順化に効果があります。無理は禁物ですが、少しずつ汗をかく習慣をつけておくと、暑い季節への備えになります。

熱中症は家の中で起きている

高齢者の熱中症で最も多い発症場所は、炎天下の屋外ではなく「自宅の中」です。住居内での発症が全体の約4割を占めるというデータもあります。

「エアコンがもったいない」が命を縮める
シニア世代の中には、節約意識や「昔はエアコンなんてなかった」という感覚から、エアコンの使用をためらう方が少なくありません。しかし、近年の夏の暑さは昔とはまったく違います。窓を開けて扇風機を回すだけでは、室温が35度を超えることもあります。

室温の目安は28度以下
環境省は室温28度以下を推奨しています。ただし、これはエアコンの設定温度ではなく「部屋の実際の温度」のこと。エアコンを28度に設定しても、部屋の場所によっては30度を超えていることがあります。温度計を目の届く場所に置いて、こまめに確認しましょう。

夜間も油断できない
日中だけでなく、寝ている間の熱中症も増えています。コンクリートの建物は昼間の熱をため込み、夜になっても室温が下がりにくいことがあります。寝る前にエアコンを切ってしまうと、明け方にかけて室温が上がり、寝ている間に脱水が進むことがあります。

📌 エアコンの電気代は「命の保険」
「電気代がかかる」と心配される方も多いですが、エアコン1台を1日中つけても電気代は1日あたり数百円程度です。熱中症で救急搬送されれば、医療費は何万円にもなります。エアコンは贅沢品ではなく、命を守るための必需品です。

今日からできる予防策7つ

熱中症は正しい知識と日頃の習慣で防ぐことができます。以下の7つの予防策を、できるものから始めてみてください。

① のどが渇く前に水分補給
のどの渇きを感じてからでは遅い場合があります。起床時、食事の前後、入浴の前後、就寝前など、タイミングを決めてこまめに水分をとりましょう。厚生労働省は飲み水として1日1.2リットルを目安に推奨しています。一度に大量に飲むのではなく、コップ半分〜1杯(100〜150ml)をこまめに飲むのがコツです。

② エアコンをためらわない
室温が28度を超えたらエアコンを使いましょう。「まだ大丈夫」と感じても、体はすでに暑さの影響を受けている可能性があります。リモコンの操作がわからないという場合は、家族に「冷房」「28度」のボタンにシールを貼ってもらうと迷わず使えます。

③ 涼しい服装を選ぶ
通気性の良い素材(綿や麻)で、ゆったりとした服を選びましょう。色よりも風通しの良さが大切です。外出時は帽子や日傘も忘れずに。

④ 食事で水分とミネラルを補給
味噌汁やスープ、果物、きゅうりやトマトなど水分を多く含む食品を積極的にとりましょう。食事を抜くと水分と塩分の補給が減ってしまいます。暑くて食欲がない時でも、そうめんやお粥(おかゆ)など、食べやすいものを少しでも口にすることが大切です。

⑤ 暑さ指数(WBGT)を確認する
環境省の「熱中症予防情報サイト」では、地域ごとの暑さ指数(WBGT)を確認できます。テレビの天気予報でも紹介されることが増えました。「危険」や「厳重警戒」の日は、できるだけ外出を避け、室内で涼しく過ごしましょう。

⑥ 暑くなる前から体を動かす
前のセクションでも触れましたが、暑熱順化のために4月〜5月のうちから軽い運動を始めましょう。ウォーキング、ラジオ体操、軽いストレッチなど、汗ばむ程度の運動を毎日15〜20分。無理のない範囲で続けることが大切です。

⑦ 周囲の人と声をかけ合う
一人暮らしの方は、暑さに気づかないまま体調を崩すリスクが高くなります。ご近所の方やお友達と「今日は暑いですね、水分とってますか?」と声をかけ合う習慣をつけましょう。声かけは、自分自身の予防意識を高めることにもつながります。

こんな症状が出たら要注意

熱中症は症状の重さによって3段階に分けられます。早い段階で気づいて対処することが、重症化を防ぐ鍵です。

軽度(I度):その場で対処できる

  • めまい、立ちくらみ
  • 筋肉のこむら返り(足がつる)
  • 大量の汗
  • なんとなくだるい

中等度(II度):医療機関への受診が必要

  • 頭痛、吐き気、嘔吐(おうと)
  • 体がぐったりする、力が入らない
  • 判断力が鈍る、集中できない

重度(III度):すぐに救急車を呼ぶ

  • 意識がもうろうとする、受け答えがおかしい
  • まっすぐ歩けない
  • 自分で水が飲めない
  • 体温が40度を超えている
  • 汗が出なくなる(体温調節が破綻したサイン)
⚠️ シニアは「なんとなくおかしい」を見逃さない
シニアの場合、熱中症の初期症状が「なんとなく元気がない」「いつもよりぼんやりしている」「食欲がない」といった曖昧な形で現れることがあります。「暑いから仕方ない」と見過ごさず、少しでも普段と違う様子があれば、涼しい場所で休んで水分をとりましょう。

いざという時の応急処置

熱中症が疑われる時は、次の手順で素早く対処しましょう。覚えておくだけで、自分や家族の命を守れます。

① まず涼しい場所へ移動する
エアコンの効いた室内、日陰のベンチなど、すぐに涼しい場所へ移動します。屋外で動けない場合は、日傘やタオルで直射日光を遮りましょう。

② 衣服をゆるめて体を冷やす
ベルトやボタンをゆるめ、風通しを良くします。体を冷やすポイントは、首の両側、脇の下、太ももの付け根(そけい部)の3か所です。ここには太い血管が通っているため、効率よく体温を下げられます。濡れたタオルや保冷剤があれば、この3か所にあてましょう。

③ 水分と塩分を補給する
意識がはっきりしていて自分で飲める場合は、経口補水液やスポーツドリンクを少しずつ飲ませます。水やお茶だけでは塩分が補えないため、できれば塩分を含む飲み物を選びましょう。経口補水液がなければ、水1リットルに塩小さじ半分(約3g)と砂糖大さじ4杯を溶かした「手作り経口補水液」でも代用できます。

④ 救急車を呼ぶ判断基準
次の場合は迷わず119番に電話してください。

  • 意識がもうろうとしている、受け答えがおかしい
  • 自分で水を飲めない
  • 水分を摂っても症状が改善しない
  • 体温が高く(39度以上)、下がる気配がない
📌 「大げさかも」と思っても呼んでいい
「救急車を呼ぶほどではないかも」と迷う方が多いですが、熱中症は急速に悪化する可能性があります。特にシニアの場合、判断力が低下していて自分で「大丈夫」と言っていても実は危険な状態ということがあります。迷ったら「#7119(救急安心センター)」に電話して相談することもできます。

離れて暮らす家族ができること

離れて暮らす高齢の親御さんが心配――そんな方にできることがあります。直接そばにいなくても、工夫次第で熱中症のリスクを減らせます。

電話やビデオ通話で声かけ
暑い日には「今日暑いけど、エアコンつけてる?」「水分ちゃんと飲んでる?」と一声かけましょう。毎日決まった時間に電話するだけでも、体調の変化に気づきやすくなります。LINEのビデオ通話なら、顔色や様子も確認できます。

エアコンを使いやすくしておく
帰省した際に、エアコンのリモコンに「冷房」「28度」のボタンにシールを貼っておく、タイマー設定をしておくなど、親御さんが迷わずエアコンを使える環境を整えておきましょう。

室温がわかる仕組みを用意する
スマートフォンで遠隔確認できる温湿度計を設置すると、離れていても部屋の温度が確認できます。室温が一定以上になったらスマホに通知が届く機種もあります。数千円程度で購入できるので、安心材料として検討してみてください。

飲み物を目につく場所に置く
帰省時やお中元に、経口補水液やスポーツドリンクをまとめて送っておくのも効果的です。冷蔵庫の中だけでなく、リビングのテーブルなど目につく場所に飲み物を置いておくと、自然と手が伸びます。

まとめ

熱中症は正しい知識と少しの備えがあれば、しっかり防ぐことができます。

大切なポイントは3つです。まず、シニアは暑さ・のどの渇き・汗の3つのセンサーが鈍くなっていることを自覚すること。次に、真夏だけでなく5月〜6月の急な暑さにも注意すること。そして、のどが渇く前の水分補給とエアコンの使用をためらわないこと。

暑くなる前の今のうちから、軽い運動で暑熱順化を始め、エアコンの点検や経口補水液の準備をしておきましょう。「まだ早い」と思える今こそが、一番の備え時です。

ご家族の方は、暑い日の声かけと、エアコンを使いやすい環境づくりを。「エアコンつけてる?」のひと言が、大切な人の命を守ります。

筆者より
この記事の内容は医療アドバイスではありません。熱中症の症状が出た場合は、すぐに応急処置を行い、必要に応じて医療機関を受診してください。