「認知症です」と医師から告げられたとき、多くの家族は頭が真っ白になります。「これからどうなるの?」「何をすればいいの?」—不安と混乱の中で、何から手をつければいいかわからない状態になるのは当然のことです。

しかし、診断後のできるだけ早い時期に動いておくべきことがあります。特に財産管理や法律的な手続きは、本人の判断能力があるうちに準備しないと選択肢が大幅に狭まります。この記事では、診断直後の家族がやるべきことを順番に整理しました。

この記事でわかること
  • 認知症診断後に最初に動くべき3つのこと(医療・介護・財産)
  • 介護保険の申請方法と、地域包括支援センターの活用法
  • 銀行口座凍結リスクと、成年後見・家族信託の違い

まず深呼吸。一人で抱え込まない

診断直後に「すべてを自分でなんとかしなければ」と感じる必要はありません。認知症のケアは長期戦であり、家族一人が抱え込むと必ず限界が来ます。

地域包括支援センターは、認知症に関するあらゆる相談を無料で受け付けている公的な窓口です。市区町村が設置しており、「何から始めればいいかわからない」という段階からでも相談できます。診断後まずここに連絡することをおすすめします。

💡 地域包括支援センターとは
高齢者の介護・医療・生活に関する相談を一括して受け付ける地域の窓口。介護保険の申請支援・ケアマネジャーの紹介・専門機関への橋渡しなどを無料で行っています。市区町村のホームページか、「地域包括支援センター + お住まいの地域名」で検索すると見つかります。

①医療:かかりつけ医と専門医との連携

認知症の診断を受けたら、まず主治医との連携を整えることが大切です。

  • 診断書を入手しておく:成年後見制度の申立て、障害者手帳の申請、民間保険の請求などで必要になります。なお、介護保険の申請では診断書は不要です(主治医意見書は市区町村が直接医師に依頼します)
  • 薬の管理方法を確認する:認知症が進むと飲み忘れや二重服用が起きやすくなります。一包化(一回分ずつ袋に入れる)やお薬カレンダーの活用をかかりつけ薬局に相談しましょう
  • 認知症専門外来・もの忘れ外来の受診:かかりつけ医がいても、認知症の種類や進行度を詳しく調べるために、専門外来の受診が役立つことがあります

②介護:介護保険の申請を早めに

介護保険のサービスを使うには、まず要介護認定を受ける必要があります。申請から認定まで原則30日程度かかるため、「まだ大丈夫」と思っても早めに申請しておくことをおすすめします。

📋 介護保険申請の流れ
  1. 申請窓口に連絡:市区町村の介護保険担当窓口、または地域包括支援センターへ。電話でも相談可能
  2. 申請書を提出:本人または家族が申請できる。地域包括支援センターが代行してくれる場合もあります
  3. 認定調査:調査員が自宅などを訪問し、本人の状態を確認する(約1時間)
  4. 主治医意見書:申請後、市区町村から主治医に意見書の作成が依頼される(申請者が手配する必要はない)
  5. 認定結果の通知:「要支援1〜2」または「要介護1〜5」の認定が届く
  6. ケアマネジャーの選定:認定後、介護サービスの計画(ケアプラン)を作るケアマネジャーを選ぶ

③財産:銀行口座と財産管理の準備

認知症が進み判断能力が低下すると、銀行が本人の口座を凍結することがあります。具体的には、窓口で本人の受け答えに不自然さがあった場合や、家族が銀行に認知症を伝えた場合などに、銀行側が「本人の意思確認ができない」と判断して凍結されます。凍結されると、家族であっても引き出しや振込ができなくなり、介護費用の支払いに困るケースがあります。

診断後、判断能力がある程度残っているうちに、以下を準備しておきましょう。

  • 通帳・印鑑・カードの場所を家族で共有する
  • 定期的に一緒に通帳を確認する習慣をつける:不審な引き出しや詐欺被害の早期発見にもなる
  • 家族名義の口座への定期送金を設定する:介護費用を別口座で管理する方法もある
  • 財産の全体像を把握する:預貯金・不動産・保険・株式などのリストを本人と一緒に作る
⚠️ 銀行への伝え方に注意
口座凍結は、多くの場合家族が銀行に「認知症です」と伝えたことがきっかけで起こります。ATMでキャッシュカードを使って引き出す分には、銀行が認知症に気づくことはほとんどありません。窓口での手続き(定期預金の解約・名義変更など)は本人確認が必要になるため、凍結につながりやすいです。

介護費用のために家族がカードで引き出すこと自体は、本人のために使っていること・使い道の記録を残しておくことが大切です。領収書やメモを保管しておけば、将来の相続時に兄弟間のトラブルも防げます。

「任意後見」「家族信託」といった制度を耳にすると、「お金がかかるし難しそう」と感じるかもしれません。でも、まず費用をかけずにできることがあります

銀行の「代理人カード」を作っておく

多くの銀行では、本人と家族が一緒に窓口に行くだけで「代理人カード」を作れます。費用は無料です。このカードがあれば、家族がATMで引き出しや振込ができます。本人の判断力があるうちに作っておきましょう。ただし、認知症が進んで本人の意思確認ができなくなると使えなくなる銀行もあるので、早めの対応が大切です。

自動送金・引き落としを整えておく

光熱費・保険料・施設費用などを口座引き落としや自動送金にしておけば、本人がATMに行く必要がなくなります。介護費用を払うための家族名義の口座に、毎月一定額を自動送金する設定も有効です。

💡 まずはこの2つから
代理人カードの作成と自動送金の設定は、費用ゼロですぐにできます。診断を受けたら、できるだけ早く銀行に相談しましょう。「認知症と診断されたのですが、今のうちにできることはありますか?」と聞けば、銀行も対応してくれます。

それでも不安なら|3つの制度を検討する

代理人カードや自動送金だけでは対応できない場合(不動産の売却、大きな契約など)は、以下の制度を検討します。どれも費用がかかるので、必要になってから考えても遅くありません。

  • 任意後見(にんいこうけん):「将来の後見人を、今のうちに自分で選んでおく」制度。公証役場での契約に数万円程度
  • 家族信託(かぞくしんたく):「財産を信頼できる家族に預けて管理してもらう」契約。自由度が高いが、契約書作成に30〜100万円程度
  • 法定後見(ほうていこうけん):「すでに判断力が低下した後に、裁判所がお金を管理する人を選ぶ」制度。後見人への報酬が月2〜6万円程度かかり続ける。最後の手段と考えてください(理由は下記)
⚠️ 法定後見制度のトラブルに注意
法定後見には深刻な問題も報告されています。家族が「後見人になりたい」と申し立てても、裁判所が見知らぬ弁護士や司法書士を選ぶことがあります。選ばれた後見人に月2〜6万円の報酬を払い続けなければならず、本人が亡くなるまで原則やめられません。また、後見人による財産の使い込み・横領事件も実際に起きており、被害額は年間数十億円規模にのぼるとの報告もあります。

こうした問題を受けて、2026年に民法改正が進められており、「補助の必要がなくなれば終了できる」制度への見直しが検討されています。

だからこそ、判断力があるうちに「任意後見」や「家族信託」で自分の意思を残しておくことが大切です。法定後見は「最後の手段」と考え、まずは早めの準備を心がけましょう。

家族で話し合っておくべきこと

認知症の進行とともに、本人の意思確認が難しくなります。判断力があるうちに、以下のことを家族で話し合い、できれば本人の意向を書き留めておきましょう。

  • 住まい:自宅で生活を続けるのか、施設入所を考えるか
  • 介護の担い手:誰が主に介護を担うか、どこまでを家族でまかなうか
  • 医療の希望:延命治療はどうするか、どこで最期を迎えたいか
  • 財産・相続:遺言書の作成を本人と一緒に考える
💡 エンディングノートの活用
本人が自分の希望を書き留めておけるエンディングノートは、認知症の診断後でも活用できます。法的効力はありませんが、家族が本人の意向を知るための大切な手がかりになります。

まとめ:診断後の行動チェックリスト

✅ 認知症診断後のチェックリスト
  1. 地域包括支援センターに連絡・相談する
  2. 主治医と今後の治療方針を確認する
  3. 薬の管理方法を薬局と相談する
  4. 介護保険の要介護認定を申請する(早めに)
  5. 通帳・印鑑・カードの場所を家族で共有する
  6. 財産の全体像をリスト化する
  7. 任意後見・家族信託など財産管理の方法を専門家に相談する
  8. 住まい・医療・相続について家族で話し合う